非線形線路を用いた超高速信号生成・制御に関する研究
- サブミリ−テラヘルツ光源の重要性
- RTD線路による極短電気パルス生成技術
- RTD線路による連続光生成技術
- 進行波型素子による信号処理
- 進行波型素子による極短電気パルス制御
- 進行波型トランジスタ
- 非線形結合線路による極短パルス位相制御
- FDTD法を用いた非線形素子の電磁界解析
[1] サブミリ−テラヘルツ光源の重要性
周波数が100GHzから数THzまでの電磁波を利用する活動が活性化して久しいところです。電子デバイスでこの周波数帯で動作するものは少なく、一方熱的励起電子のためにレーザーで生成することも常温では困難であるため周波数のミッシング・リンクとなっているのです。近年になってさまざまな手法でこの周波数帯の光源開発が進んできています。主流はしかし赤外光の超高速光電気変換によるものが多く,コンパクトかつ利便性豊かなものには程遠い状況です。電子デバイスならびに回路によって光源が工夫されれば簡易に多くの人がこの周波数帯を用いた技術を利用することができるようになるでしょう。非線形波動制御を機軸とした従来にないアプローチでこの実現に向けた研究を進めています。
[2] RTD線路による極短電気パルス生成技術
極短電気パルス生成手法として共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling
Diode,RTD)を用いる手法を紹介します。RTDは準位共鳴するバイアス近傍に負性抵抗が現れます。便宜的にこれより小さい電圧領域をI、大きい電圧領域をIIとすると、図面のようにRTDを周期装荷した伝送線路において、前者では指数関数モードが後者では正弦関数モードが誘起されます。両者の速度整合のためにパルスは線路に固有の設計値まで高度に圧縮されることが知られます。当たり前に手に入る低周波の発振器によってテラヘルツ帯のパルス生成が可能になるかも知れません。
[3] RTD線路による連続光発生技術
RTD線路にステップパルスを入力すると大変興味深いパルスエッジの往復伝播が予想されます。領域I、IIに誘起されるモードが前進伝播に際してはそれぞれ指数、正弦モードであり、線路の有限の損失成分によってエッジが削られ最終的に領域IIにおいても指数モードが誘起されることが自然になされます。領域I、IIともに指数モードが誘起されると逆進をはじめます。このヨーヨーのような振る舞いは適当な入力端の条件によって繰り返されることになります。往復に要する時間はステップパルスの振幅と当然相関があります。振幅が大となれば往復時間も大となり、発振周波数を入力パルス振幅によって変化させるなどの高機能動作が可能です。
[4] 進行波型素子による信号処理
現下、電子素子回路は寄生的な抵抗あるいは容量によってその本来の高速性を十分に活かすことができない状況にあります。MMICなどで多用される分布定数型の素子回路は現状打破の一つの切り口となるように考えています。進行波型トランジスタや光制御位相シフタ、さまざまな非線形線路を組合すことによってなる進行波型論理、信号処理の研究を進めています。
下図では多重分離器を進行波型論理で構成する例を示しています。データ信号(DT)はクロック信号(CK)によって打ち抜かれ同期の後1:2に多重分離される構成です。信号同期処理には光制御位相シフタ(Optically-controlled phase shifter, OCPS)が中心的な役割を行います。受動回路である結合線路はゲーティング処理に有効な利用手法があります。最終段では進行波型トランジスタ(Traveling-wave FET, TW-FET)で整形処理を行い出力を与えます。
下図では多重分離器を進行波型論理で構成する例を示しています。データ信号(DT)はクロック信号(CK)によって打ち抜かれ同期の後1:2に多重分離される構成です。信号同期処理には光制御位相シフタ(Optically-controlled phase shifter, OCPS)が中心的な役割を行います。受動回路である結合線路はゲーティング処理に有効な利用手法があります。最終段では進行波型トランジスタ(Traveling-wave FET, TW-FET)で整形処理を行い出力を与えます。
[5] 進行波型素子による極短電気パルス制御
さまざまな非線形線路をもちいることによって従来不可能であったピコ秒電気パルスの位相制御、振幅制御に道が開かれます。トランジスタの増幅作用あるいは区分的に非線形性を有する伝送線路を用いることによってパルス増幅が実現されえます。非線形線路と線形線路を結合させた線路によっては線形伝播するクロックによって非線形パルスたるデータの同期を実現することができます。極短電気パルス生成をRTD線路で実現したならば、ここに示すような非線形線路によって制御を行い、超高速信号処理の新しい方法論が確立されるものと期待しています。
[6] 進行波型トランジスタ
下図面は進行波型トランジスタの概要を示しています。通常電極に過ぎないゲート・ドレインそれぞれを信号が伝播する伝送線路として定式化される進行波型素子です。有限のトランスコンダクタンスのために、ゲート線路を伝播する波動がドレイン線路上に微小な電圧波を誘導します。この微小増幅波が正相に重畳するさようによって超広帯域増幅を実現するものとして古くから議論のあるものです。しかし、近年の短ゲート素子においてはゲート線路−ドレイン線路間の電磁結合は決して無視できません。このような強結合線路における設計論を確立するにいたっています。結合の結果生ずる二つの伝播モードの一方を選択的に増幅させることを骨子とするものです。
図面には電気光学サンプリング技術を用いて計測したドレイン線路上の波形推移を示します。入力側から出力側にむけてパルスの立ち上がりの急峻化が確認されます。出力端の立ち上がり時間は計測限界にまでいたっています。
図面には電気光学サンプリング技術を用いて計測したドレイン線路上の波形推移を示します。入力側から出力側にむけてパルスの立ち上がりの急峻化が確認されます。出力端の立ち上がり時間は計測限界にまでいたっています。
ゲート線路直下にはショットキ接合があります。MESFET系でTW−FETを構築すればこれに起因する非線形波動伝播をゲート線路に与えることができます。上述した単一モードの選択的増幅によってゲート線路上を伝播するパルスの増幅・圧縮を実現することができます。以下の図面では数値解析の帰結、単一モード選択的増幅の必要性を説いています。
[7] 非線形結合線路による極短パルス位相制御
線形線路と非線形線路を近接配置して構成される非線形結合線路における波動伝播特性を調べてみました。大変興味深いことに線形線路を伝播するパルスに非線形線路を伝播するパルスが引き寄せられるという性質が確認されます。下図においてその原理と数値計算結果を示しています。非線形線路上のパルスは上部が二つにスプリットされ線形パルスのピークを取り囲み振動するような振る舞いを見せます。
これを利用した信号同期回路の概念図を下に示します。初期位相揺らぎが解消されピコ秒パルスの同期が確認されます。
[8] FDTD法を用いた非線形素子の電磁界解析
非線形素子・能動素子を簡易に取り入れることでフルウェーブ解析を進めています。下図にはRTD線路における極短パルス生成のFDTD法によるデモンストレーションを示しています。この解析手法を精密化して進行波型素子一般の動作を実践的に検証する研究を進めています。等価回路表現では十分でない波動伝播特性を予言することによって素子試作を有意義なものにすることができます。また電気光学サンプリングでは電界を直接検知します。したがって電界磁界について予言性のあるツールは歓迎されるところでもあります。